ものかき夢想

ひたすらものかき

【SS】夢の中

その日、私は夢を見ました。

 

長い、長い廊下にひとり立ち尽くしていました。周りは薄暗く、寒くも暑くもありません。窓も扉も一切無く、出口が見えない廊下。床は、リノリウムというのでしょうか、妙に光沢のある硬い床です。リノリウムということは、ここは学校でしょうか。いや、リノリウムは病院でも使われているので、断定はできません。

 

ここがどこであろうと関係はありません。ひとつ厄介なのが、私自身この奇妙なまでに長い廊下に見覚えがない、ということです。夢の中なので、私の記憶にまったく覚えがない、というのは至って問題がない、と思うのですが、いくら見覚えがないにしても、窓も扉も横への道も突き当たりも何も何も見えない廊下が、現実世界に存在しうるのでしょうか。いや、ここは夢の中なので、現実での可能不可能について考えるのは不毛に近いことなのでしょう。

 

後ろを振り向いてみました。やはり、前方と同じく、何もなく、どこまでも続く、廊下。長い、長い、廊下。夢の中にしては、あまりに無機質で、まったいら。空を飛んだり、海の上を走ったり、手のひらからアイスクリームをぽんと出してみたりしたいものです。夢の中ですから。

 

ふと疑問に思いました。私が先程から廊下と言ってるこの長い通路は、本当に廊下、なのでしょうか。もっと、何か、重要な何かだと思えてなりません。建物と建物とをつなぐ渡り廊下にしては、あまりにも長過ぎます。見えている限りでも、数百メートルといったところでしょうか。両端ともに突き当りが見えないので、もっと長いでしょう。そんな長い廊下、歩いていて疲れてしまいます。あるいはこれも夢の中の絵空事、なのでしょうか。あまり深く考える必要はないのかもしれません。

 

いつまでも立ち尽くしているわけにはいきません。とりあえず、歩いてみることにします。ただ、私はどちらに向かって歩いていけば良いのでしょうか?気がついた時に前方だと思っていた方向が、実は逆向きだった、ということも考えられます。かといって天邪鬼になって後ろ向きに歩いて、やっぱり後ろ向きでした、ということにもなりかねません。私は、どうすれば。

 

薄暗かった部屋が、更に薄暗くなってきました。窓もないので外を確認することもできません。今は朝か昼か、夜なのか。そもそもここはどこなのか。時間の感覚がまったくわからないというのも恐怖でなりません。私はだんだん怖くなってきました。

 

脚が、うずうずとしてきました。気がついた時、私は一心不乱に走っていました。どちらに向かったのかは、まったく覚えていません。とにかく、我を忘れて、ただ、ひたすらに、走っていました。

 

夢の中なのに、呼吸が荒くなる。夢の中なのに、脚に乳酸が溜まる。夢の中なのに、怖い。まわりはもうほぼ真っ暗になっており、もう、どこを走っているのかさえも、わかりません。誰か、だれか、だれかいないの?ひとりはいやだ。ひとりは、怖い。怖い、こわい。

 

無我夢中で走っていたせいか、前方からくる衝撃にしばらく気がつけませんでした。どうやら突き当りのドアにぶつかってしまったようです。長いながい廊下は道を失い、新たな世界の境界線を有していました。私は夢中になってドアノブを探し、手にかける。金属製のそれは、私の火照った心を冷ます。ゆっくりと、回す。引く。どうやら鍵はかかっていない。ゆっくりと、ゆっくりと、ドアが開く。その先に、見えるせかいは、