【SS】好きな数字
「羽曳野くん、好きな数字は何かしら」
「なんですか和泉さん突然。しかもさり気なく五七五調。僕は今日の晩ご飯の献立を考えるのに忙しいんですよ」
「そんなの後でもできるでしょうに」
「もう17時過ぎてるから遅すぎるくらいなんですよ。今月ピンチだから財布との相談も必然的に厳しくなってしまうんです」
「スーパーのお惣菜でいいじゃない。半額シールが貼られる頃合いを見計らうのよ」
「近所のスーパーはですね、夜になると僕みたいな大学生と節約術に取り憑かれている主婦が百鬼夜行のように群がるんですよ。だから半額どころか20%引きも確保できるかわからないんです。10%でやっとです」
「ふーん。で、好きな数字は?」
「お構いなしですか。あまり深く考えたことはありませんけど、ラッキーセブンの7ですかね」
「自分で聞いといて言うのもなんだけど、普通ね」
「普通で悪かったですね。そういう和泉さんはあるんですか、好きな数字」
「私?28。その次に6よ」
「スッと出てきましたね。それもふたつも。何か意味でもあるんですか」
「このふたつの数字を聞いて何かピンとこないの」
「こないです」
「即答ね」
「うーん……誰かの背番号ですか?28って誰だろう」
「背番号は惜しいけど、私が好きな理由ではないわね」
「惜しいんですか。ちょっと意外です」
「意外って何よ」
「いえ、和泉さんってなんとなくスポーツとか観ないイメージがあったので」
「羽曳野くんほどじゃないけど、私だってスポーツ観戦はするわよ。アメフトとラグビーの区別はつかないけど」
「それは僕も同じです」
「完全数だからよ」
「え?」
「だから、私が28と6が好きな理由よ」
「あ、あぁそういえばそんな話をしていましたね。唐突すぎて混乱しました」
「さっきからずっと同じ話しかしていないわよ」
「多分そう思っているのは和泉さんだけです。ところでその完全数ってなんですか」
「自分以外の約数の和が元の数になる自然数を完全数とよぶのよ。試しに計算してみなさいな」
「……あ、6も28も確かに約数を足すと元の数字になります。面白いですね」
「そうでしょう。この数の存在を知ってから好きな数字を問われると28か6と答えるようにしているの」
「就活でも好きな数字とその理由を聞いてくる会社があると聞いたことがあります。いいことが聞けました」
「そんなヨコシマなことに使わないでちょうだい」
「そんな」
「それに割とスタンダードな答えだと思うから使うだけ無駄かもしれないわよ」
「そんなにスタンダードですかね、これ」
「就活で面接の時、隣で同じこと答えた人がいてね。その時の面接官の顔が”あーいるんだよねぇこの程度で知ったような顔する新卒”みたいな顔をしていたわよ」
「その面接官が性格悪いだけじゃないですか」
「そうとも限らないわよ。理系であれば九割が知っている(和泉調べ)常識中の常識よ」
「(和泉調べ)が少し気になりますが、そこまで言うならもう少し考えます」
「そうしなさいな。悩め若人」
「和泉さんだって似たような歳じゃないですか」
「何言ってんの、社会に出てしまえば学生なんて皆若人に見えるわよ。夏休みが欲しい」
「やっぱり和泉さんでも長期休みが欲しいんですね」
「私だって仕事のために生きているわけじゃないからね。……ところで羽曳野くん」
「なんですか」
「……大学から少し離れるんだけど、気になるラーメン屋さんがあるのよ。ずっと気になってたんだけど、女ひとりで入るのは気が引けるから一緒に来てくれない?勿論おごるから」
「本当ですか?ありがとうございます。お店のラーメンなんていつぶりだろ」
「まだ晩ご飯には少し早いから、もう少しゆっくりしてから行きましょうか」
「そうですね。……ところで和泉さん、少し気になったんですけど、なんで好きな数字は6じゃなくて28なんですか?好きな理由が完全数で同じなら、若い方の6を選ぶのが普通だと思うのですが」
「あぁ、それはね―――」
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2017年7月18日にめでたく28歳になりました。結婚して娘が生まれて学生時代以前とは打って変わって別世界に来たような生活の変貌ぶりに戸惑いながらも楽しく人生を謳歌しております。これからもよろしくお願いします。