ものかき夢想

ひたすらものかき

【SS】本の世界

仕事が終わり、家に帰り、食事や風呂もそこそこに、私は机に向かった。

机に向かったらまずやっている"日課"がある。その日の起床から現在に至るまでを思い返し、何があったか、何をしてきたか、お金の収支やその日の気分等々を机に向かってなんとなくノートに書き出すのだ。何か特別に目的があるわけでもなく、黙々と毎日書き続けている。いつ頃からだろうか。大学入って間もない頃だったはずだから、かれこれ10年は続けている。心底ヘトヘトに疲れている等で書けなかった場合を除いてほぼ毎日書いているのだから我ながら大したもんだと思う。他のことに関してはとても飽きっぽいから、人間という生き物は不思議だ。

 

そうそう、日課といえばもう一つやっていることがある。読書だ。

自分で言うのもなんだが、私は無類の読書好きだ。小学校に名前が全て平仮名の児童向けミステリ作家の作品を読んで以来、私は本という世界にどっぷりと浸っている。ジャンルは実に様々で、小学校以来のミステリやSF、時代物やエッセイ、教養ものまで多岐にわたる。通勤カバンには文庫本を常に3冊は忍ばせてあるし、本屋に入れば必ずカバンを重くして店を出る。以前にうっかり通勤カバンに本を入れ忘れてしまったことがある。通勤電車の中で何もすることがなく、電車に揺られている時間がいつもの2倍3倍に感じられてしまった。おかげで出社する前に酷く疲弊した。それ以来、少なくとも3冊はカバンの中に忍ばせておくようにした。だいぶ話が逸れてしまったが、とにかくそれくらい本が好きなんだということをわかって貰いたい。

 

話を戻そう。

私は家に帰ってから、机に向かって"記録作業"と共に読書もする。ただ、無制限に読書を始めてしまうとそれこそ終わりが見えなくなってしまうので、一応2時間という時間制限を作っている。私としてはだいぶ口惜しいルールなのだが、一度徹夜してしまって以来、自分に厳しくしている。もちろん翌日が休日の場合は無制限に本を読む。至福の時間だ。

 

本の読み方は数あれど、私の場合は珈琲を欠かせない。

通勤時間中は致し方ないが、自室で読書をする際には必ず温かい珈琲を用意する。砂糖は2杯、ミルクを少々。いつかミルで豆を挽き、きちんとしたコーヒーメーカーで淹れたいのだが、生憎今はインスタントだ。しかし珈琲に変わりはないのでありがたく頂くとする。映画館におけるポップコーンのような存在だ。何にせよ欠かせない存在。

 

机の上には、17冊の本が並べてある。

文庫本が11冊、新書判が3冊、そして大型単行本が3冊。内、図書館で借りてきたのは大型単行本の3冊。我が軍は非情なまでに財源不足のため、大型単行本などという高価なものを買う余裕がない。「1億円あったら何に使う?」というベタな質問をされたら、大学の奨学金を完済した後、残った分は全て本に費やすと答えるだろう。

 

最近、史実をかき集めることに凝っている。

神話について、戦艦について、カフェの歴史について、メイドの実態について、……内容は多岐にわたる。中高時代はもっぱらミステリやSFなどに心酔していたが、ここ最近は過去の事実を身体に取り込むのに凝っている。かといって、今はまったくミステリ等を読まなくなった、というわけではない。現に机上にも何冊かミステリの本が並べてある。ただ、最近は前述の史実についての本を読む割合が多くなった、それだけの話である。

 

さて、今日は何を読もうか。

先に述べたが、自宅における私の読書時間は2時間しかない。ここでもしミステリを手に取り、ものすごく熱い展開の中制限時間が訪れてしまうと、私は続きが気になって気になって気になって睡眠どころではなくなってしまうだろう。SFも同様である。ハウツー本はどうだろう。いわゆる自己啓発本だったり読書の仕方だったりを載せた本も机上ではないが、あるにはある。しかし、貴重な自室の読書を、ろくに活用もしないであろう技術の会得の為に費やしていいものだろうか。どうにも気が引ける。こうしていつも史実を載せた分厚い単行本に手が伸びるのだが、ここ数日このパターンが続いているのでいい加減に断ち切りたいものだ。手を伸ばしては引っ込め、そしてまた伸ばして。この時間を省けばもっと読書時間を増やせると思うのだが、私はこの「本を選んでいる時間」というのもたまらなく好きなのである。だから思う存分悩みに悩み、"夜のお相手"を選ぶ。ただひとつ難点なのは、そうやって本を選び終わる頃には珈琲がすっかり冷め切ってしまうことである。

 

よし、今日は君に決めた。

これだ、と思いながらも、いややっぱりと手が迷うことは往々にして発生する。もし本が女性だったらと思うと私はとんだ性欲野郎だと思う。が、机に並べられているのは胸の膨らみもなければ石鹸のにおいもしない紙の束である。しかし、私はその紙の束に異様なまでに魅入られ、愛し、愛で、堪能し、そしてため息をつく。胸の膨らみはないが、紙の厚みがある。石鹸のにおいはしないが、インクのにおいがする。私は、そんな紙と文字の世界に魅了された。

 

 

頁を繰る毎に、私は脳髄から本の世界に魅了される。そんな魅惑の世界を期待し、今日も本を手に取る。此処から先は本の世界。誰も私の邪魔はさせない。

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

「机に向かって本を手に取る」までを2000文字程度で書いてみよう、と、ふと思って書いてみました。なかなかに楽しかったです。またこういうセルフ企画を思いついたらトコトンやってみようかと思います。