ものかき夢想

ひたすらものかき

【SS】扉の向こう

私は入院することになりました。

 

一時は生死に関わるほどの重体だったそうなのですが、今では院内を回れるほどにまで回復しました。とは言っても、まだ退院できるほどではないそうなのですが。あれほどのことがあったにも関わらず生きているのが不思議なくらいだ、とお医者様は目を丸くしておられました。患者である私の前でそんな事を仰るなんて、余程の奇跡だったのでしょう。なんだか私も可笑しく思ってしまいました。

 

病院の個室では持ち込んだ本を読んでいるのですが、いつまでも本を読んでいるばかりでは気分が沈んでしまいます。院内にある中庭は入っても良いとのことでしたので、私は気分転換に時々中庭へ向かいます。お気に入りの本を持ち、さんさんと日光が降り注ぐ中庭へと向かいました。

 

中庭へ向かうにはまず私の部屋から右へ向かった先にあるエレベータへ乗る必要があるのですが、そこへ行く途中に奇妙な光景を見ました。いえ、ただの見間違いなら良いのですが、それにしては少し奇妙だったのです。寝ぼけていたのかもしれません。きっとそうなのでしょう。

 

端的に申し上げますと、扉の先に廊下がありました。それだけです。それだけなのですが、奇妙なのです。パッと見た感じですと、出口が見当たりません。出口もそうですし、突き当りらしきものも見当たりません。見れば見るほど、闇が続くばかりなのです。窓もないので廊下全体は薄暗く、すこし怖くなってきました。まるで、死の世界への入り口のような、そんな気味の悪さを感じました。もしかしたら、この先には霊安室があるのかもしれません。もし私があのまま死んでしまっていたら、ここを通ることになるのでしょうか。少し、嫌な気分になりました。

 

私はそんな気分を払拭するために、さっさとエレベータに乗り、中庭へ向かいました。そこでは先程の陰鬱とした空気とはまるで違う、とても晴れ晴れとした世界が私を包んでくれました。木陰のベンチに座り、本を広げました。優しい風がそよそよと私の頬を撫でます。いつしか私はうとうとと眠ってしまったのです。

 

私は、夢を見ました。

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

その気はなかったのですが、このお話のちょっと前を思いついたので書きました。ちょいちょい変なところがあるのはご愛嬌ということで。