【SS】あなたの趣味
「せんぱーい、おとどけものでーす。あげませんけど」
「どういうこったい。……なんだいそれは」
「フィギュアです!あげませんよ?」
「いらんよ。そういうのは自分の部屋にかざりなさい」
「えー、いいじゃないですか。この部室、本ばっっっかりで全然かわいくないですもん。ひとつくらいこういうかわいらしいのがあってもいいと思います。なんなら2個でも3個でも」
「僕は本さえあればいいんだけどな。コーヒーいれて」
「それくらい自分でやってくださいよ。……先輩の本好きはなんていうか、凄まじいですよね」
「いきなりなんだ。そりゃあ僕は読書が大好きだけど、何もずっと本を読んでいるわけじゃあないよ。1日の3分の1は寝ることに集中してる」
「そりゃ誰だってそうですよ。問題はそれ以外です。先輩って読書以外の趣味は無いんですか?あと、砂糖は2杯でいいんでしたっけ」
「読書以外だと、本で得た知識をノートにまとめるのが好きだな。ミルクもお忘れなく」
「注文が多いなぁ。それだと読書とあまり変わりませんよ。私が言ってるのは、散歩だったりサイクリングだったり、そういうアウトドアな趣味はないのかってことです。どうぞ」
「ありがとう。気分転換に外を歩いたりはするけど、趣味というほどではないかな。歩くのは疲れるし、結局読書に敵う時間消費方法を知らない。君はもっと本を読んだほうがいい。教養がなさすぎる」
「私は立派なレィディだから家事ができればいいのです。マンガやラノベは読みますけど、先輩が読んでるようなムツカチイ本は読めません」
「立派なレィディだからこそ教養を付けるために本を読むべきだと思うんだけどね。ところで、さっきから僕のことをとやかく言ってるけど、君こそ真っ当な趣味を持った方がいいよ。さっきのフィギュアもそうだけど、もっと女の子らしい趣味はないのかい」
「わ、私は、その、ら、ラノベ、を、……」
「知ってるよ。ライトノベルもそうだけど、登場人物の男同士をくっつけてイチャイチャさせるのはどうかと思うよ」
「わぁー!うわぁー!な、なななななんでそんな事知ってるんですか!い、いやいやそそそそんなじじじつはごございませんでして」
「図星か。昨日部室にノートを忘れていっただろう」
「うわぁー!きゃー!忘れてー!……ていうか!昨日私が聞いた時に"君のノートなんざ興味ない"なんて吐き捨ててたじゃないですか!何しっかり中身見てるんですか!セクハラだー!訴えてやるー!」
「待てまて。僕は一言も"君のノートの中身を見た"とは言ってないよ」
「?ど、どういうことですか。だってさっき私のホモノートの中身を言い当てたじゃないですか」
「……君は本当に馬鹿だな」
「あー!馬鹿呼ばわりした!馬鹿って言ったほうが馬鹿なんですよ!バーカ!バーーカ!」
「君のノート、タイトル付けてたよね。確か……なんだっけ?」
「"秘密の花園"です。"秘密の花園"と書いて"エデンのその"と読みます」
「読み方はどうだっていいよ。そんなタイトルと一緒に絡み合った2人の男が表紙に描いてあったら、誰だって中身が想像出来るだろうに」
「…………あー!」
「気付くのが遅いし、こうなると何故予想できなかったのだね。やっぱり君は馬鹿だな。そんな"立派なレィディ"じゃあ、嫁に貰われんぞ」
「……余計なお世話ですよ。何かオススメの本はありますか?」
「ホモを矯正する本に心当たりはないが、立派なレディに近づける本ならあるぞ。」
「ど、どこですか!」
「窓際の本棚2段目、の左から3冊目」
「……先輩、私が部室に入ってから一度も顔を上げてませんけど、よく本の位置がわかりますね」
「そりゃあここにある本はほぼ全て僕が管理しているからね。どの本がどこにあるのかなんて、すぐにわかる」
「ほへー、そういうもんなんですかね。左から3冊目、と。……マンガですね」
「文章が苦手なのだろう。それなら君でも読めるんじゃないかな」
「なんだか馬鹿にされてる気がする……。じゃあちょっと借りていきますね。明日また返しますので」
「待て。僕の本は持って帰るなと何度も言ってるだろう。読みたかったらここで読んでってくれ」
「はいはい。じゃあ私もお紅茶をいれましょうかね」
「後で感想を聞くから、しっかり頭に入れながら読むんだぞ」
「わかってますって」
「あ、コーヒーおかわり」
「……まったく」
ぼんやりと設定を練りながらぼんやりと書いたSSです。なんだかんだでここまでしっかりと(?)書いたのは初めてです。倉下さんにそそのかされて勝手に締切を定めて描いてみたのですが、初めてにしてはなかなか上出来ではないかなと思います。彼らのように何千字にもわたるロングSSはまた今度。ところで会話文オンリーって難しいですね。次は地の文も含めて描いてみたいな。
ではまた。
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