漫画を読む若者は活字もよく読む、という調査結果が発表される
「羽曳野君、読書週間よ」
「いきなりなんですか和泉さん。……読書週間?」
「そう、日本図書館協会が1924年に始めた、読書を推進する期間のことよ。……知らなかったの?」
「いや、名前は聞いたことがあるんですが、具体的にいつとか、誰が始めたとかはよく知らなくて」
「あきれた。貴方それでも読書人?」
「自称した覚えはありません。その読書週間が今日から、ということですか?」
「そういうことよ。さすが羽曳野君、私が名探偵と太鼓判を押しただけあるわね」
「なった覚えもありませんし、なるつもりもありません」
「釣れないわね。ところで羽曳野君、貴方は子供の頃、ご両親から"漫画ばかり読んでいないで本を読みなさい"と言われなかったかしら」
「あぁ、よく言われました。漫画を読んだらバカになるーとか、そんなものより伝記を読めーとか。和泉さんはどうだったんですか?」
「似たようなものね」
「最近でも若者の活字離れとかいってテレビが報道するのをよく見ます。僕は中学の頃に本の面白さに気付けたからそうでもないですけど、結構酷いみたいですね」
「でもね羽曳野君、最近の調査でその”若者の活字離れ”は解消されつつあるらしいことがわかったの」
「え、そうなんですか?」
「この記事を読んで頂戴」
「"学校図書館に「読書嫌いの子に来てもらう呼び水」(略)としてマンガを置くなど、読書習慣の中にマンガを位置づける動きも教育現場に広がっている"……へぇ、学校の図書室にも漫画が置かれるようになっているんですね」
「そうみたいね。そしてその中のグラフにも目を通してみて」
「どれどれ……あ、1984年と最新の結果を比較すると、高校生が横ばいしているだけで小中学生の読書量が増加してますね。中学生に至っては平均約2冊から約4冊に倍化してる」
「そう、若者の活字離れといわれ始めたのは2008年〜2009年の急激な落ち込みの頃だと思うの。それでも読書量が過去最悪になったわけじゃない」
「へぇ、興味深いですね。なんでこんなに読書量が増えたんでしょうか」
「要因のひとつに、一定時間の読書タイムを設けている学校が増えている点にあると思うわ」
「読書タイム?」
「そう、朝のホームルームがあったでしょう?あの時間に10分程度、本を読む時間を設けているの。読む本は活字であればなんでもOK。図書室から借りてもいいし、自分で持ち込んでも良い。読んだ後に読書感想文的な何かを書かされることもないから、自分のペースで自由に読めるの」
「そんな事やってる学校があるんですね。僕の時はなかったなぁ」
「千葉県のとある学校で試験的に導入したらしいんだけど、これが結構高評価だったらしいわ。その結果を見た他の学校が続々と真似をし始めたの」
「良い試みですよね。朝の10分だけだから読書が苦手な子でも負担になりにくいですし、読書を始めるきっかけにはもってこいだと思います」
「人って、やったことのない何かを始める時が、精神的負担が一番負担が大きいんですって。それを10分の読書タイムできっかけを与えてくれた。強制されるのはその10分だけだからなんとなしにでも読み始める。興味が湧いたら自分で勝手にぞくぞくと本を読み進めるわ」
「普段から漫画を読んでいる人は、活字ではないにせよ普段から"本を手に取る"という行為に慣れているから、余計に活字本に取っ付きやすくなっているわけですね」
「そういうこと。だから漫画を読んでいる子でも活字を読んでいる割合が6割にも上っているのね」
「悪く言われることが多いですけど、漫画も案外悪くないってことですね」
「本が全てというわけじゃないけれど、本を読んだら自分の世界が広がるわ。本は先人の財産、数時間で取り込める私たちは幸せものね」
「そこまで考えたことはなかったなぁ。和泉さんって結構ロマンチストですね」
「そんなことないわ、羽曳野君が思っているよりはリアリストよ、私」
「どうだか」
「ところで羽曳野君、忘れているかもしれないけれど、今日から読書週間よ。貴方はこの期間、何を読むのかしら」
「え、僕ですか?僕は……」