【所感SS】電子書籍について
放課後のとある教室。外の喧騒からかけ離れた空間に、2人の男女が各々の世界を創りあげていた。背の高い男性は黙々と先人の知恵を詰め込み、背の低い女性は文明の利器をぺたぺた触っていた。
「ねぇ先輩」
「なんだ」
"先輩"と呼ばれた男は顔を上げずに意識のベクトルを彼女に向ける。
「先輩って、すっごい本を読んでますよね」
「……それは"すっごい本"を読んでいるのか、すっごい"本を読んでいる"のかどっちだ。君の日本語は時々意味がわからん」
「そんなことどうだっていいです!とにかく、先輩って本読むじゃないですか」
「どうだっていいはないだろう……。まぁ確かに僕は本を読んでいるが、それがどうかしたか?」
「そんな大したアレじゃないんですが、先輩って"電子書籍"についてどう思いますか?」
「どう、とは」
「先輩って紙の本ばっかり読んでるじゃないですか。そんな先輩が、なんていうか、電子書籍に対して、いかなるお考えをお持ちなのかなぁ、って。なんとなく思った次第なわけであります」
彼女の疑問を受け、彼は本を閉じ、何も言わずに制服の内ポケットから何かを取り出した。それの大きさは文庫本程だが、こちらの方が段違いに薄い。色は黒く、大きなディスプレイが備わっている。
「何ですか、それ」
「へぇー、意外です。先輩のことだから"紙の本以外はクソじゃ。電子書籍なんざわしゃあ絶対に認めまへんからなやでー"とか言うのかと思いました」
「誰だそれは。そりゃあ今でも紙の本の方が好きだけどな、電子書籍には電子書籍なりに利点がある」
「ほほうっ。と、言いますと?」
「一番の利点は、軽い上に大容量ってところだな。リーダや保存する本によるが、一般的な文庫本なら1000冊は入るんじゃないかな」
「ほぇー、そんなにですか。1000冊というと、本棚まるまるポケットに入れてる感じなんですかね」
「まさしくな。外出時に万が一本を持ってくるのを忘れても、こいつがあればまず時間を弄ばずに済む」
「電子書籍サマサマですね。じゃあもうそれだけでいいのでは?なんで先輩は部室では紙の本を読んでるんです?それ読めばいいのに」
「それにはいくつか理由がある。まずひとつに、君にはわからんだろうが、僕は紙の本に色々と書き込むのだよ。気になる箇所にラインを引いたり、簡単なメモを本の上に残す。そういった細かいアナログな動作が電子書籍ではやりにくいんだ」
「へぇー、確かに電子書籍ってそういうの苦手そうなイメージです」
「もちろん、そういう機能がまったくないわけではないがな。まだまだ未完成状態といえる。
もうひとつの理由は、読む本のジャンルの違いだ」
「じゃんる?」
「そう。
たとえば、物語を描いた小説みたいに"これは内容さえ読めればそれでいい"と思える本に関しては電子書籍の方が手軽で便利だ。しばらく読まなくても一切邪魔にならない」
「あー、確かに私もラノベとか1回読んだら邪魔なので売っちゃうことが多いかもです」
「で、あとで読みたくなってまた買い直す、と」
「うぐっ、……はい、そのとおりです」
「電子書籍だとその心配がない。読まないからといって邪魔にならんし、大概の小説は本に書き込んだりもしない。僕の場合、これらの本は電子書籍として読んでもまったく不便は感じられない」
「なるほど、小説以外に電子書籍で何か読んだりしないんですか?」
「あんまり読まないな。学術書や論述書に関しては紙の本で読むことが多い。電子書籍で読むとなると、あとは精々"実際に買い集めるとドエライ体積を誇る漫画"とかだな。何十巻もある漫画を実際に買い集めるとなると、すごく邪魔になる」
「へぇー、先輩マンガ読むんですね。意外です。どんなマンガ読んでるんですか?BLですか?」
「君と一緒にしないでくれ。割と有名な漫画だが、"ライバルが末代まで主人公に嫌がらせをする漫画"、といえばわかるかな」
「あー、アレですか」
「そう、アレだ」
「先輩もそういうの好きなんですね。ちょっと親近感わきました」
「そんなとこで沸かれても困るが。……まぁ、僕の電子書籍利用状況はざっとこんなもんかな。特にどっちに傾倒したりとかいうことはない。紙は紙で、電子は電子で、それぞれ読み分けてる。それだけだな」
「そんなもんですか。てっきり"今は最先端ハイテクノロジーの時代、これからは電子書籍の時代でんがな!紙の本なんか廃れまんがな!"って言うのかと思ってました」
「さっきと言ってることが違う気がするが、僕は"紙の本はこう"とか"電子書籍がこう"とか言うつもりはないよ。紙の本は紙の本で、電子書籍は電子書籍で、それぞれの活路が見出され、それぞれの進化をしていくと思ってる。紙の本がなくなってしまうだろうと声を上げる人もいるが、僕はそう思わない。むしろ、紙の本と電子書籍は切り分けて考えるべきだろう。同じ読書ツールでも、求められるシチュエーションは別々にあるはずだからな。僕なんかが実際にそうだ」
「うえぇ、なんだかわけがわからなくなってきました。要するに、"みんなちがって、みんないい"ってことですか?」
「……知ってか知らずかまで聞きはしないが、まさしくその通りだ。僕の周りには、この2つを全く同じ土俵で戦わせている人があまりにも多い。僕の意見が完全に正しいとまでは言わないが、こういう意見もある、ということも知ってもらいたいな」
「なるほどー、そんなこと言われたら、私も電子書籍が気になってきました。それっていくらするんですか?」
「これは8000円もしなかったが、電子書籍なら君のスマホでも読めるよ」
「え、そうなんですか。どうやるんですか」
「専用のアプリがある。名前は…………」
放課後のとある教室。外の喧騒からかけ離れた空間に、2人の男女が互いに世界を創っていた。背の高い男性は己の知恵を授け、背の低い女性は相変わらず文明の利器をぺたぺた触っていた。
私の電子書籍に対する思いというか考えをぼんやりSSに乗っけて書いてみました。先輩の電子書籍の使い方は、そのまんま私の電子書籍の使い方と考えてください。こ、こんな感じでわかるかしら。
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